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転記2 原発事故対応で官邸の無能がさらけ出されたのは・・・

原発事故対応で官邸の無能がさらけ出されたのは、能力の問題だけではなく「過覚醒状態」に指導者が陥ったから

香山リカさんが「復興ニッポン」に連載されていました。興味深いので転記させて頂きました。続きです。



過覚醒状態」で下された判断に「課題」が見える
あの日以来、「アフター311」の心象風景を追う。

東日本大震災以降、日本社会に大きな精神的変動が起こりつつある。実際に人々の心、そして社会全体の集合的マインドに大きな変化が起こっているのが現在の日本である。震災後の社会マインド変化がどのように表出しているのか、表層への噴出現場を、これから徐々に読み解いていく。

前回検証したのは、大震災の直後に私たちに訪れた「起き続け、考え続け、ネットで情報を集め続け、語り続ける」という過覚醒状態だった。

——なぜ、そうなったのか。

それは、衝撃や恐怖から精神が崩壊するのを避けるため、心の防衛装置が自動的に作動したからだ。その結果、被災地にいない人たちも、過覚醒状態の中で「私に何ができるか」と考えていち早く行動に移した。

「それはそれでよかったじゃないか」と思う人もいるかもしれないが、そう判断してしまうのは早計だ。
過覚醒状態は一種の“心の条件反射”であって、そこで起こされた行動や決断が誤っていることがまま見られるからだ。

たとえば福島第一原発事故の初期対応に、その典型が見て取れる。少し検証してみよう。

初期対応の誤りは、「過覚醒状態」の判断の影響か
福島第一原発事故では、最大の問題は初期対応の誤りだったと考えられている。

注水すべきは真水か、海水か。ベントのタイミングはあれでよかったのか。なぜ注水中断判断が下されたのか。米国の支援申し出を最初から受けるべきではなかったか。

こうした重要な課題が矢継ぎ早に提示され、短時間での情報収集と分析、決断が求められた。しかし現実には東電と官邸、保安院で情報が錯綜し、意思の伝達も「言った言わない」レベルで齟齬を来した。

その結果、後で振り返れば「明白に間違いだった」判断が積み重ねられ、深刻な事態を招いてしまった。

もちろん、後から批判するのはたやすい。その場で各人が精一杯最善の方向を模索したことも間違いではない。しかし、そこに「過覚醒状態」に陥った官邸側の非論理的・脊髄反射的判断が反映されているのも明らかだ。

緊急時のパニック状態にはマニュアルが極めて有効
ただ、非常事態にこのように混乱することは事前に考え得ることだ。その意味で最大の原因は、こういった事態を想定した事故対応マニュアルが整備されていなかったことにある。

いくら官邸がパニックになっていても、マニュアルどおりに初期対応できれば、少なくとも重要な間違いは生じにくい。

ことは原発事故対応のマニュアルを官邸が持っていなかったというだけではない。緊急事態といっても、それこそ地震や事故からテロ、他国の侵攻といったあらゆる事態がある。総合的に対応する筋道だったマニュアルがないのが問題だ。

それははっきりしているのだが、よしんばマニュアルがなかったとしても、通常の状態なら官邸も東電も、もう少し系統立てて考え、的確な判断を下せたように思う。

つまり、今回の事故の隠れた最大の原因は、発生直後、東電や官邸などの中枢部にいる人間たちが、正常心理を保てなかったことにある、と言える。




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被災者の健康に直結する事実を、「1か月」も隠し続けた官邸
地震や津波のあまりの規模を前に「パニック状態」はなんとか防げたものの、過覚醒モードなど心の非常装置を作動させなければならない状態に陥り、それが正しい判断を妨げたわけだ。

私がこのことを確信したのは、5月2日の細野首相補佐官の会見においてだった。

放射能汚染が原発から同心円にではなく、飯館村を含む北西方向を中心に広がることは、2号機が破損した当日の3月15日時点で予測できていた。——この会見では、そのことが明らかにされた。

しかし当初、避難を求められたのは、半径20キロ同心円内の住民だけで、飯館村に計画避難の勧告が出たのは4月11日になってからのことだ。

被災者の健康に直結する極めて重要なこの事実を、なぜ官邸は1か月近くも隠していたのか。

記者会見で理由を問われた細野補佐官は、「国民がパニックになることを懸念した」と説明した。ここがどう考えてもおかしい。
続く

国民のパニックではなく、自分たちのパニックを恐れた「官邸」
汚染が同心円状にではなく北西部に広がると説明すると、なぜ国民がパニックに陥るのだろう。

常識的に考えて、正確な汚染予測が発表され、それに従って合理的に避難地域が指定されるほうが、パニックは防げる。

汚染予測数値が出ずに単純に「半径20キロ」だけ避難と言われれば疑心暗鬼を生み、「40キロは本当に安全なのか? 60キロではどうなのか?」と、逆に不安が強まるだけだ。

おそらく、細野補佐官ら首脳がパニックを懸念したのは、国民に関してではなく、自分たちのことなのだ。

地震発生直後から数日は、津波だ原発だと、とても政府官邸だけでは対処し切れない大問題が次々に勃発し、自分たちがパニックに陥りそうになっていたのだろう。

だから、そのとき「とにかく政府がパニックになるのを避ける」というのが、無意識のうちに彼らの至上命題になっていたのだ。

緊急事態に豹変した知識人たち
かろうじて政府は、政権を投げ出したりこぞって国外に脱出したりといった意味でのパニックを自衛することはできた。

しかしその代わりに過覚醒と呼べるようなとっ散らかった状態が訪れ、原発対応についても対応や説明が二転、三転。結局は事態が長引くことになってしまっている。

過覚醒状態は一見、精神崩壊やパニックに比べればマシのような気がする。しかし後になってから振り返ると、この官邸の例に見られるように、「どうしてあのとき、あんなバカなことをしてしまったのか」と、後で振り返れば驚くほど単純な判断ミスや誤った行動に走ることが多いものだ。

震災発生直後にブログやツィッターで発信したことをまとめて単行本を緊急出版する作家や評論家がいる。

それを読んでいても驚かされることが多い。

「なぜこの人が?」と、いつもの発言とはまったく異なっている場合があったりするからだ。

たとえば普段はナショナリズムに対し批判的な立場を取っていた評論家が、「日本に生まれてよかった。いまこそ強い国、日本の再生を」と突然、愛国者に豹変したかのような文章を書いたりとか。

指導者は危機時の心理的訓練を受けるべき
この人たちは震災を機に思想的に転向した、と言えるのだろうか。

それは違う。彼らは震災後、一時的に過覚醒状態に陥り、つい誇大的、情緒的な発言をしてしまっただけと思われる。

パニックに陥って泣き叫んだり凍りついて動けなくなったりするか、過覚醒状態に陥って、いつもとはまった違った決断、判断、行動に出るか。

——どちらが良いという話ではないが、いずれにしてもその中で国家の命運を賭ける決断がなされるのは問題だ。

「次の総理」話をするのはまだ早すぎるかもしれないが、ひとつだけ条件を挙げるとすれば、“想定外”のできごとが起きたとき、パニックにも過覚醒にも陥らず、通常の心理状態を保ち続ける訓練がされている人であるべき。つまり最低限、ストレスコーピングの訓練がされていなければならない。

なぜなら国家運営で最大に重要なのは危機時の対応であって、そこにこそ国益や国民の利益を担保する最大のポイントが表出するからだ。



続く
by takoome | 2011-06-26 13:53 | Trackback | Comments(0)
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